紅葉もほぼ終わった晩秋に、落ち葉をガサゴソ踏みしめながら雑木林を歩いていると、マツボックリを拾いたくなります。
大輪の花のように勢いよく開いたマツボックリはとても軽いせいか、気がつくと両手に持ちきれないくらい拾ってしまっています。
マツボックリは松脂成分を含んでいるのか、焚き火やバーベキューの焚き付けにするととても火がつきやすく、勢いがあってうまくいきます。
じょうずに焼いて、形はそのままの真っ黒に炭化したマツボックリができれば、家のディスプレイにもつかえますね。

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このマツボックリ、松の木についているときはパイナップルのように円錐型をしていますが、地面に落ちているマツボックリは花のように開いています。
何の疑問もなく「そんなもんだ」と頭を通過していましたが、妻のひとことでそこにクサビが打ち込まれたのです。
「マツボックリって植木鉢においてあって、水やりの目安につかわれるよね」
なんでマツボックリが水やりの目安になるんだ?
よく聞いてみると衝撃の事実!マツボックリは湿るとパイナップルのように円錐型に閉じ、乾くと花のように開くのだって!さっそく実験してみました。

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開ききったマツボックリを器に入れて水を上から注ぎ、半分ほど浸るようにして、念のために霧吹きで十分湿らせる。
20、30分もすると!グイッ、グイッと閉じてきました!うわー、動いてるよ、とびっくり。

すっかり閉じてパイナップル型になったマツボックリちゃんを、今度は水から出して陽の当たる場所で乾かしていきます。
数時間かかりますが、じわじわと花のように開いていくのです。

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「茶色くなって地面に落ちたマツボックリはもう死んでいるのだ」と思っていました。
いや、生きているのか、死んでいるのかわかりませんが、とにかく動くのです。
うれしくなった私は、友達が家に来るたびにマツボックリの開閉をやってみせて喜んでいます。
今のところ知らない人ばかりで、みんなおどろいていますよ。

そうやって何度も開いたり閉じたりを繰り返しているうちに、ポロッと何かが落ちました。
そう、種です。
マツボックリのひらひらのすきまに種が隠されているのです。
ということは、寒くて湿っている時は種を大事に大事に保護してかくまい、暖かく乾燥してきたら「さあ、お行き!」と子どもを手放す。
そんな仕組みのためにマツボックリちゃんは開閉するのでしょうか?

始めて人と会う。
初めて職場や学校にでかける。

そんな時、マツボックリちゃんのように、気持ちが閉じ気味になることがあります。
もしかしたら、人を傷つける嫌な人かもしれない。自分にとっては過酷な職場や学校かもしれない。
そう思うと、自分の大切な部分を守りたい、と思うのは自然なことです。
いい人だ!この職場や学校なら通えそう!そう感じて初めて、こころを開いていくことができますね。
周囲の暖かさを感じて開いていくのです。

エリートの両親の期待が重すぎてひきこもりになっていた子が、親や都会を離れてのびのびし始めることがあります。
アルコール依存症や暴力がひどい家庭で育つと、気持ちが抑えられて動かない、と感じることもあります。
自分にとって寒い時期に気持ちを閉ざすのは自衛手段なのです。

小説「赤毛のアン」にでてくるマリラは、アンによって暖められ、徐々に気持ちを開いていきます。
世間とは厳しいものだ、すくなくとも自分は世間から後ろ指をさされないようにしなければならない、とスキを見せまいとしていたマリラですが、喜び、悲しみ、感謝するアンに接していくうちに「この子にはこころを見せても大丈夫」と思い始めていくのでしょう。

身近にいるマツボックリちゃんも、きっと寒い思いをしているにちがいありません。
現に寒い思いをしているのかもしれず、育っていくなかで「まわりは寒いものだ」と思い込んでしまっているのかもしれません。
手で無理やり開こうとしても壊してしまうだけです。
「世間の中には暖かいところもあるんだよ」と気づいてもらえると、徐々に開いてくれるでしょう。

こっちのほうはあったかいヨ!
ここにいれば誰もあなたを傷つけないヨ!

そんな陽だまりのようなメッセージを贈れたらいいですね。